カポエイラの見学に行ってきました。生カポエイラ演奏と演舞は大変楽しかったです。そこでサッカーとの関係性を感じたので少しですが共有しておきます。
カポエイラとはこんなものです。
よく言われるのがカポエイラのジンガとサッカーのドリブルの関係性です。まぁ普通に言われるのがブラジル人のリズム感と身体能力を結びつけてパフォーマンス的な映像でまとめるやり方ですよね。こんな感じで。
でも、こんなふうに曖昧なキーワードで繋げても何も理解は生まれないというかますます混乱するだけで、知ったか人間を増やすだけなのでダメだと思うのです。きちんと脳科学的なアプローチで深層を結びつけて理解すれば、カポエイラとドリブルの関係が見えてきます。僕がこれからそこについて説明してみましょう。
以前、カポエイラのジンガという動きがサッカーのドリブルのリズム変化を言い表した言葉であることを解説しました。
サッカーから見たカポエイラの理解はこの程度だと僕は今まで思ってたんですが、今回の見学でだいぶ見方が変わりました。もっと深層でカポエイラとサッカーはつながっています。
サッカーの基本は、如何に小さな動作からより多くの選択肢を得るか、です。その心は、相手に自分の動作を予測させない・またはあえて予測させてから逆をつくために選択肢を残しておく、ことにあります。
対人スポーツでは基本的に相手の動作から次に起こることを予測します。相手の行動を自分の予測の範疇に捉えて、それを上回る手をだすことができたら勝負に勝つことが出来ます。相手の行動が自分の予測を上回れば、勝つことは厳しくなります。
カポエイラは攻撃を相手に当てないように蹴りの動作をします。そして相手はその攻撃をよける動作をします。ただ避けているだけでは面白くなくて、よけるけど近づいたり、よけながら反撃の蹴りを繰り出したりします(実際には当てない)。ここにコミュニケーションが生まれます。タイミングの合わせがないじゃんけんを繰り返すような感じです。
例えば側転しながら蹴るふりをする技があるとします。これを繰り出したら相手にはしゃがむように避けることが求められます。自分がやりたい技を延々と繰り返すだけではカポエイラは成り立ちません。相手の反応があって初めて成立します。逆に言えば相手が技を出したら今度は自分が反応を示す番なのです。
側転から起き上がったら位置関係が変わっているし、相手はしゃがんだ状態です。この状態から次に続けていくにはまた違ったパターンの技を準備しなければなりません。技を繋げていくには高度なアドリブ力が必要です。相手の姿勢を見て次の技を予測し、それにふさわしい反応を示し、攻撃を避けながら自分も次に攻撃を繰り出すための準備をします。
つまり、相手の姿勢を視認したところからカポエイラの技量は発揮されるのです。攻撃してくる相手をよけつつ、体同士がかするほど近距離を行き来できるのがベテランのカポエリスタです。 予測力が発達していないと出来ない芸当です。また技のパターンの蓄積も重要です。なにより相手をよく見ること、そして相手の姿勢を見て次の動きを予測して自分の動きを制御することです。直前まで技を変更できるように自分の体をコントロールできなければなりません。これを続けていくのですから、体も疲れますが脳も疲れることでしょう。
言葉で書くとまどろっこしく感じますが、実際はこれらの処理を脳が全て無意識に行っています。なので、あんまり考えて言葉にする必要はありません。見よう見まねでいろんな人と演舞すれば自然と上手くなるのでしょう。
そして最も重要な事は、ブラジルではこのような高度な身体文化があり、身体文化を継承する非言語コミュニケーションが発達しているということなのです。
ドリブルにおいても本来はそうあるべきで、抜き技がどうだとかオシャレヒールだとか、相手の反応を無視した空論ばかりが横行して、本質的な上達につながる議論が端へ追いやられています。カポエイラが教えてくれるのは、ドリブルで大事なのは相手の反応を予測した対話だということです。
相手の反応を上手く引き出すにはどんな技を使ったらいいか、それが懐でありリズム変化であり角度を変えるドリブルなのです。これらは本当に細かい視点を持たないと気づくことが出来ない技ですが、テレビでいつでも見ることが出来ますし、なんなら近所のお兄ちゃんだって身につけています。そこにメディアがスポットライトを当てていかないと、下手な人はいつまで経っても下手なまんま。日本全体が下手なまんまでワールドカップ優勝なんて夢のまた夢ですよ。
カポエイラの演舞では力量に差があると、一方がずるずる下がってしまったり、上段者が本気蹴りを下段者に見舞ったりして、結構な緊張感が生まれます。右回りに旋回したら右踵のハイキックが来るのはカポエイラを習いたての子供でも予測できますし、実際8歳位の子が半歩後ずさりするような反応を見せてくれます。このような”肌で感じる身体コミュニケーション”こそ技の伝承に最適なのです。
日常生活にカポエイラがあるブラジルはやっぱりサッカー強くて当然だな。そんなことを感じた2015GWでした。
ちなみにカポエイラ習えばサッカーが上手くなるわけではないので注意して下さい。カポエイラを理解するためのメンタルモデルを構築することは、サッカーをより深く理解すべき指導者に必要なことかもしれませんが。