今回はプリンストンオフェンスのサッカー版の解説やります。
プリンストンオフェンスは大雑把に言うと、下のようなステップに分けられます。
①小さなズレを生み出す
②オフボールの選手が合わせる
③大きなズレ=アウトナンバーを作る
④スペースを崩していく
X.スペースを埋めて、ポジションバランスを回復する
バスケの場合は3まで行けばシュートが打てますが、サッカーの場合、3までだとまだゴールから遠いことが多いので、アウトナンバーを使ってさらに一段階深く崩す必要があります。
この5つのステップをチーム共通理解としてパターン化し、再現性を維持できるシステムをサッカー版のプリンストンオフェンスと呼ぶことにしましょう。共通理解があると、相手の変化に対応しやすく、様々なシチュエーションに対して解決策を用意することができます。また、試合の流れの変化を感じやすくなるため、試合巧者のチームを作ることができます。
言うは易しな感じになっていますが、プリンストンオフェンスのすごいところはこれを実現するためのノウハウがシステムに内在している点です。
例えば、オフボールの合わせでは渦の理論とダブルパンチで駆け引きすることが重要とあります。渦の理論とはドリブルする方向に合わせて、周囲の味方が渦を描くようにサポートする動きを指します。ダブルパンチとはマーカーに対して2択を迫る駆け引きのことです。駆け引きで仕掛けるタイミングはDFが目を切ったときです。DFが目を切り、意識が途切れた隙に動き出すことで、少ない労力で大きな成果を上げられます。
ズレを拡大することを目的とし、周りの選手がボールに合わせて動きます。チーム全体でスペースを見ながらズレを見逃さないように意識することで、自ずと選手同士のコミュニケーションが活性化します。「スペースが一番見えているのは、監督ではなく中にいる選手自身」なのですから、選手が試合を動かすイニシアチブを取り、試合の状況を切り取る言葉を紡ぎ出し、ピッチの中で問題解決をはかります。
選手が主役であり、個人能力に過剰に依存することなく、選手同士のコミュニケーションで試合を優位に進めるチームづくりが可能です。また、必然的に相手を見てプレーする習慣がつき、セオリーのひとつひとつを学習する機会を創出できます。
ここで重要なのが”最初の歯車を回すこと”です。それは「小さなズレを作る」フェーズに当たります。
僕はいままで、システムのかみ合わせを外し、可変システムでDFのギャップにポジショニングすれば、パスは自然に回っていくと思っていました。しかし、それを実際にやってみると、ボールを持ちながら、選手同士のリンクが切れている感覚に陥り、あまりに簡単にボールを失ってしまいます。たまに上手く行った時があっても再現性に乏しく、何を基準にいいパス回しとそうでないパス回しを区別すればいいのかすら、わからなくなってしまいました。
何が足りないかは、プリンストンオフェンスを学んで合点がいきました。プリンストンオフェンスの最初のフェーズ、「小さなズレを作る」ことができれば、そのあとのパスはどんどんつながっていきます。小さなズレは例えば、リターンパスや運ぶドリブルや風間理論でいうところの「ボールを止める技術」など、実に基本的な技術で生み出すことができます。そして、相手が強くなればなるほど、この基本的な技術の精度が求められてきます。耳タコになるほど聞かされる「基本が大事」ということの意味がこれではっきりとわかります。基本が疎かになると、チームプレイの最初の歯車を回すことができません。つまり、組織だった攻撃戦術を志向するチームにおいて、基本技術に劣る選手は”使えない”ということです。
徹底して止める蹴るの練習を行うことで、強い相手に準備しましょう。逆に言うと、「自分たちのサッカー」が通用する相手のレベルは、自分たちの止める蹴るのレベルで決まるということです。
最後に言わなければならないのは、サッカー版のプリンストンオフェンスはひとつの体系として、表記可能なシステムとしてあるべきだということです。そして、ひとつひとつの動きがパターンとして複雑に連動して、それをなぞることでセオリーを学習できるようになっているべきです。これらを実現してはじめてシステムが教育的に機能し、選手の知性を引き出すことが可能になります。
そんな夢のようなシステムを構築できるようにもうちょっと頑張ります。