ネイマール対川島

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隠れたセオリーを見つけ出すには違和感に敏感になることが大事です。自分の持っている知識で理解できない現象について足を止めて考えてみましょう。今日はそんなはなしを。

シンガポールで行われた親善試合、日本対ブラジル(0-4)ではネイマールが四得点挙げました。そのうち2点は川島との1対1を制したものでした。ここではネイマールのGKとの1対1におけるシュートのセオリーを抽出したいと思います。

まずは下のアニメーションをご覧ください。

これは2点目なんですが、川島選手がタイミングをずらされて全く反応できていない様子がわかります。普通プロのGKで一国の代表に選ばれるくらいなのだから、こんな直前まで目をつぶっていたかのような外され方はしないんです。しかし、今回は相手が悪かったようです。ネイマールのステップワークに惑わされてしまいました。どんな仕掛けがあったかみてみます。

こうツイートしましたが、大幅に訂正させていただきます。訂正ポイントは3つ。

・川島はスプリットステップをしていた
・ネイマールの最後のタッチが右に流れたのは意図的であるとは言い切れない
・フェイントに引っかかったのではなく、キックモーションの初動を見抜けなかった

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これを見るとわずかですが右足も浮いています。川島はスプリットステップを試みました。しかしネイマールがキックした後でしたが。順を追って見てみます。

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スルーパスが出ます。右後ろから斜めのパスが出てきます。それに対してネイマールはまっすぐあるいはやや左前に走り出します。

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ここで副審を確認しています

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ボールタッチ

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これが右に流れる。芝のせいか、わざとかは本人に聞かないとわかりません。

2015/2/22追記
ネイマールのシュート直前のワンタッチが右に流れたのはおそらく意図したものです。その理由は以下の

 そのアプローチ部分でも、予想進路と実際の進路にずれが存在する。そのずれは、攻撃側が主導権を握って仕掛けることを助け、結果として抜くことを助ける。

 蹴球計画 - ドリブルで抜く前のこと

で確認できます。
右に流すことで川島に意図しない左へのサイドステップを強いて、タイミングを外したのでしょう。

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右膝が90度になるまで振り上げます。小さなキックフェイントなのでしょうか?右に流れたボールに対してアプローチするために右へ助走進路を変更します。

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川島はサイドステップを始めています。

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ここからキックモーションが始まっているとは、動画で見るとまったくわかりません。

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軸足を踏んでいるタイミングでスプリットステップをするのが一番効果的ですが、川島選手はまだサイドステップをやめていません。

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ここで右足を浮かせてスプリットステップをします。

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両足を浮かせた状態でセービング姿勢を取ります。

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ネイマールは体幹を絞って(腹筋を収縮させて上体を前屈させ)コンパクトに足を振りぬきます。上半身と下半身のねじれも凄いです。

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左足の先をボールが通過していきます。

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さらにここで左足を浮かせて反応しています。

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やはり、準備が間に合わなかったということでしょう。

はじめはこう考えました。

ネイマールのシュート 001

斜めに転がるボールに対して一旦追いついてから

ネイマールのシュート 002

弧を描くように助走を取りボールを追い越すことでGKを惹き付けて、GKにサイドステップを踏ませてから、再度ボールに追いつき、ステップの隙を突くようにシュートを流し込む。

通常、GKは動いている時に足元にシュートを打たれると反応できません。その辺のことは蹴球計画にくわしくあります。

でもよく見るとネイマールは直前にワンタッチしているし、しかもそのタッチの姿勢はまっすぐボールを押し出すように見えます。芝が荒れていたという情報もあるように、ここで斜め右にイレギュラーしたとも考えられます。

いずれにせよ、川島選手はネイマールのシュート直前の進路変更に対応するべくサイドステップを踏んだことは確実です。その結果シュートタイミングにステップが間に合わないというミスが生まれました。

ここでアイスホッケーのペナルティシュートアウトを見てみましょう。アイスホッケーの選手はGKに向かってまっすぐアプローチしません。蛇行するか円弧をかくか、必ず斜めに侵入します。そうすると、GKはゴールの中心に居続けることが難しくなります。

ネイマールのシュート3 001

このテクニックを使えば、シュートフェイクなどの身体の大きな動作を伴わずにGKのポジションミスを誘えます。例えGKがシューターに合わせて正確にポジション移動ができたとしても、それすなわちサイドステップを踏んでいるということですから、シューターには足元を抜くシュートを打つ隙が生まれます。これがネイマールの上手さだったんだ、と納得いきかけましたが、よく見返してみると、これだけでは説明がつかないんですね。

なぜ、川島はネイマールのシュートタイミングを予測できなかったのか。

ポジションが悪くてもタイミングと蹴る方向がわかれば止められそうなものです。我々は現にそういう1対1を何度も目にしています。GKとの1対1を決められないという悩みはいつの時代も変わらないものです。

川島程の経験があれば、シューターの姿勢を見てコースとタイミングを読むのはお手の物なはずです。それを上回るネイマールの技術ってなんだって話になります。上に紹介した「弧を描く助走」にしても、普通の人がやったらGKとの距離を詰められるだけで逆にコースを限定されてしまいそうです。

あれだけスプリットステップを踏むタイミングを遅らされたのはなにか仕掛けがあるに違いない、そう思って動画をコマ送りで子細に観察してみました。すると、

ネイマールはキックと走りの境目が非常に小さいことがわかりました。つまり、普通に走っている途中でキックが出来るということです。

・キックのテイクバックが非常に小さく、ランニングの足の振り戻しと同じ振り方からキック動作に移行できる
・小さい足の振りで最大限のパワーを生み出すために体幹を捩(よじ)り足を素早く振る
・フォロースルーは体全体がぎこちなく捻れたようになるが、シュートタイミングを隠すためであれば、後の姿勢の悪さは気にしない

このへんが僕が感じたポイントです。上手い選手はキックと歩行・走行動作に切り目がなく、自然な姿勢でプレーが出来ます。守る方からすると、いつ何時キックするかわからないので常に緊張が強いられるか、気を抜いた瞬間にフッとやられます。まるで目をつぶっていたかのように間抜けにやられてしまいます。多分川島はそんな状態だったのだと思います。

日本ではキックは「しっかり」、切り返しは「大きく速く」と教わります。言葉通り受け取るとプレーが簡単に予測可能になります。そういう選手に囲まれて育てば、ネイマールなど一流選手と対峙した時に止められるわけがありません。なぜなら彼らは「さりげなく」「動作がバレないように」プレーしているからです。言葉で説明してもよくわからないので、これ以上の説明はあの方にお願いしましょう。

参考動画。

正直今記事は消化不良に終わりましたが、みなさんもネイマールのプレー分析をしてみてください。その際はスロー映像を使うことを強くお勧めします。

《参考記事》
シュートのセオリー
シュートのテクニック
ゴールを決める技術(蹴球計画)
ての字ドリブル

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6 Comments

  1. teocali 返信
    • silkyskill 返信
  2. Isco 返信
    • silkyskill 返信
  3. てんせぐりてぃ 返信
  4. momo 返信

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