隠れたセオリーを見つけ出すには違和感に敏感になることが大事です。自分の持っている知識で理解できない現象について足を止めて考えてみましょう。今日はそんなはなしを。
シンガポールで行われた親善試合、日本対ブラジル(0-4)ではネイマールが四得点挙げました。そのうち2点は川島との1対1を制したものでした。ここではネイマールのGKとの1対1におけるシュートのセオリーを抽出したいと思います。
まずは下のアニメーションをご覧ください。
これは2点目なんですが、川島選手がタイミングをずらされて全く反応できていない様子がわかります。普通プロのGKで一国の代表に選ばれるくらいなのだから、こんな直前まで目をつぶっていたかのような外され方はしないんです。しかし、今回は相手が悪かったようです。ネイマールのステップワークに惑わされてしまいました。どんな仕掛けがあったかみてみます。
蹴る瞬間に左足浮かせてるんだよね。で、ボールが通過してから接地してまた左足伸ばしてセービングを試みてる。蹴球計画的(スプリットステップ)に言えば川島のミスなんだけど、僕にはネイマールのステップが川島を惑わせたように思える。 pic.twitter.com/XEmQhAVVDL
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足元に入ったボールを pic.twitter.com/uvlpJk6jnu — footballhack.jp (@silkyskill) 2014, 10月 16
軸足踏み込んで一旦右に流して pic.twitter.com/1j93ANsK8y
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ネイマールの重心(体幹)に向かってポジション調整していたGK川島に、再度サイドステップ踏ませて pic.twitter.com/QM6oPKfGPQ — footballhack.jp (@silkyskill) 2014, 10月 16
空いているサイドへ向けて pic.twitter.com/LgghglRQOC
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川島の左足が接地するであろうポイントの脇を通過するように(絶対足が届かないところを狙って)、インサイドで流し込むですか?この一連を裏抜けから抜かりなく完遂ですか。一挙手一投足がヤバイ。 pic.twitter.com/Hc6hstPVSw — footballhack.jp (@silkyskill) 2014, 10月 16
こうツイートしましたが、大幅に訂正させていただきます。訂正ポイントは3つ。
・川島はスプリットステップをしていた
・ネイマールの最後のタッチが右に流れたのは意図的であるとは言い切れない
・フェイントに引っかかったのではなく、キックモーションの初動を見抜けなかった
これを見るとわずかですが右足も浮いています。川島はスプリットステップを試みました。しかしネイマールがキックした後でしたが。順を追って見てみます。
スルーパスが出ます。右後ろから斜めのパスが出てきます。それに対してネイマールはまっすぐあるいはやや左前に走り出します。
ここで副審を確認しています
ボールタッチ
これが右に流れる。芝のせいか、わざとかは本人に聞かないとわかりません。
2015/2/22追記
ネイマールのシュート直前のワンタッチが右に流れたのはおそらく意図したものです。その理由は以下の
そのアプローチ部分でも、予想進路と実際の進路にずれが存在する。そのずれは、攻撃側が主導権を握って仕掛けることを助け、結果として抜くことを助ける。
で確認できます。
右に流すことで川島に意図しない左へのサイドステップを強いて、タイミングを外したのでしょう。
右膝が90度になるまで振り上げます。小さなキックフェイントなのでしょうか?右に流れたボールに対してアプローチするために右へ助走進路を変更します。
川島はサイドステップを始めています。
ここからキックモーションが始まっているとは、動画で見るとまったくわかりません。
軸足を踏んでいるタイミングでスプリットステップをするのが一番効果的ですが、川島選手はまだサイドステップをやめていません。
ここで右足を浮かせてスプリットステップをします。
両足を浮かせた状態でセービング姿勢を取ります。
ネイマールは体幹を絞って(腹筋を収縮させて上体を前屈させ)コンパクトに足を振りぬきます。上半身と下半身のねじれも凄いです。
左足の先をボールが通過していきます。
さらにここで左足を浮かせて反応しています。
やはり、準備が間に合わなかったということでしょう。
はじめはこう考えました。
斜めに転がるボールに対して一旦追いついてから
弧を描くように助走を取りボールを追い越すことでGKを惹き付けて、GKにサイドステップを踏ませてから、再度ボールに追いつき、ステップの隙を突くようにシュートを流し込む。
通常、GKは動いている時に足元にシュートを打たれると反応できません。その辺のことは蹴球計画にくわしくあります。
「カシージャスの思想として、最後の最後は、ポジションよりも、自分で反応して止められる範囲を最大にすることを優先する」 http://t.co/sIHaGTO8ZK この考え方から言うと、川島も向上の余地があるということでしょうか?
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でもよく見るとネイマールは直前にワンタッチしているし、しかもそのタッチの姿勢はまっすぐボールを押し出すように見えます。芝が荒れていたという情報もあるように、ここで斜め右にイレギュラーしたとも考えられます。
いずれにせよ、川島選手はネイマールのシュート直前の進路変更に対応するべくサイドステップを踏んだことは確実です。その結果シュートタイミングにステップが間に合わないというミスが生まれました。
ここでアイスホッケーのペナルティシュートアウトを見てみましょう。アイスホッケーの選手はGKに向かってまっすぐアプローチしません。蛇行するか円弧をかくか、必ず斜めに侵入します。そうすると、GKはゴールの中心に居続けることが難しくなります。
このテクニックを使えば、シュートフェイクなどの身体の大きな動作を伴わずにGKのポジションミスを誘えます。例えGKがシューターに合わせて正確にポジション移動ができたとしても、それすなわちサイドステップを踏んでいるということですから、シューターには足元を抜くシュートを打つ隙が生まれます。これがネイマールの上手さだったんだ、と納得いきかけましたが、よく見返してみると、これだけでは説明がつかないんですね。
なぜ、川島はネイマールのシュートタイミングを予測できなかったのか。
ポジションが悪くてもタイミングと蹴る方向がわかれば止められそうなものです。我々は現にそういう1対1を何度も目にしています。GKとの1対1を決められないという悩みはいつの時代も変わらないものです。
川島程の経験があれば、シューターの姿勢を見てコースとタイミングを読むのはお手の物なはずです。それを上回るネイマールの技術ってなんだって話になります。上に紹介した「弧を描く助走」にしても、普通の人がやったらGKとの距離を詰められるだけで逆にコースを限定されてしまいそうです。
あれだけスプリットステップを踏むタイミングを遅らされたのはなにか仕掛けがあるに違いない、そう思って動画をコマ送りで子細に観察してみました。すると、
ネイマールはキックと走りの境目が非常に小さいことがわかりました。つまり、普通に走っている途中でキックが出来るということです。
・キックのテイクバックが非常に小さく、ランニングの足の振り戻しと同じ振り方からキック動作に移行できる
・小さい足の振りで最大限のパワーを生み出すために体幹を捩(よじ)り足を素早く振る
・フォロースルーは体全体がぎこちなく捻れたようになるが、シュートタイミングを隠すためであれば、後の姿勢の悪さは気にしない
このへんが僕が感じたポイントです。上手い選手はキックと歩行・走行動作に切り目がなく、自然な姿勢でプレーが出来ます。守る方からすると、いつ何時キックするかわからないので常に緊張が強いられるか、気を抜いた瞬間にフッとやられます。まるで目をつぶっていたかのように間抜けにやられてしまいます。多分川島はそんな状態だったのだと思います。
日本ではキックは「しっかり」、切り返しは「大きく速く」と教わります。言葉通り受け取るとプレーが簡単に予測可能になります。そういう選手に囲まれて育てば、ネイマールなど一流選手と対峙した時に止められるわけがありません。なぜなら彼らは「さりげなく」「動作がバレないように」プレーしているからです。言葉で説明してもよくわからないので、これ以上の説明はあの方にお願いしましょう。
参考動画。
正直今記事は消化不良に終わりましたが、みなさんもネイマールのプレー分析をしてみてください。その際はスロー映像を使うことを強くお勧めします。
《参考記事》
シュートのセオリー
シュートのテクニック
ゴールを決める技術(蹴球計画)
ての字ドリブル
はじめましておもいしろく興味深い考察ですね。
一瞬、減速or軸足ステップorシザース前移動を装っているようにも見えますね。
川島選手は一瞬息を吐かされたか詰まったか、呼吸リズムを変えられたようにも見えます。
いずれにしてもフットサル経験が無意識に出ているようにも思えます。
コメントありがとうございます。「呼吸を乱された」というのは的確な表現ですね。この細かい駆け引きはフットサル特有のものかもしれません。
今中3です。
去年にこのブログ(と今はもう連載されてないブログ)を発見しました。
現在は2歩1触がかなり様になってきて、細かいタッチで前よりもスムーズに相手を抜けるようになりました!今は懐を毎日意識しながら練習中です(スラローム編、正対編両方です)。
silkyskillさん本人も書いていましたが、これを自由に使えるようになれば周りと違う選手に、また1歩進化できると信じています。
才能のある選手はこのようなブログを見なくてもうまくなっていくのだと思いますが、自分はそうではないのでこのブログからアイディア、セオリーを盗みまくっています。そして最近は自分が”あ、なんかコイツ上手いぞ。”と思っていた選手とも互角、もしくは上回るプレーを出来るようになりました。ボールタッチだけでなく、手押しなどのボディーコンタクトの記事から学んだこともプラスになっていると思います。そのおかげでプレー中も余裕が出来ました。
今日は質問ではなくただお礼を伝えたくてコメントしました。いつもありがとうございます。これからもがんばってください!
競技サッカーをやっている選手からフィードバックをいただけるのは大変貴重ですし光栄なことです。またいろいろ気がついたことがあったら遠慮なくコメントください。頑張ってね!!
手足を早く動かすには空中に浮いている時(浮く瞬間)が良い
貴殿のサイトでの表現を借りるのであれば 浮き。
ただしその浮きをかける方法は一つではなく二つ。
一つは文字通り浮く つまり空中に上がる。(スプリットステップはこちら)
蹴球計画さんもこちらの概念が強い。
ただ、より重要なもう一つは
急激に下がることで 落下中に 浮く。
この使い分けが上達の重要な要素となると存じますがいかがでしょうか。
これができるようになると、初動が消えます。
いつも参考にさせて頂き、息子と練習しています!
ご意見を頂きたいのですが。
キックのテイクバックには、膝の後屈と股関節の後屈が複合してると思いますが、コンパクトなキックとは股関節の後屈が少ないキックでしょうか?
私は現役時代に、キックは足首伸ばして膝下を振れ!と教わってきました。しかし最近膝に力を入れて振ってはダメだと感じます。
良いキックは
1 股関節だけを意識して後屈させテイクバック
2 脱力して筋肉の反跳力で振り出し
3 サイド股関節に力を入れてボールを蹴る
だと感じます。
膝と足首を脱力して蹴ると、蹴り足の重みも利用してスムーズに振り抜けますし、最後は足首ペロンとなりますw。
股関節テイクバックは見合いのサイドキックとも矛盾ありません。走行動作の中で、大きく軸足を降り出せば、自然に蹴り足は股関節テイクバックできるので切り目も無くなります。
コンパクトなキックとは「股関節テイクバックが主体で、無理な膝下テイクバックの無いもの」と感じていますがどうでしょうか?
何かあれば教えて頂きたいです!
が