今回はこのプレー。
4人のDFを転ばせながら誰ひとりとしてボールに触らせないという神のようなプレーに隠れている技術を取り出してみましょう。
まず、懐トラップから始まります。前の部分がわからないので、推測に成りますがおそらくこのような状況からスタートしたのでしょう。リケルメは青で左から右へ攻めていて、白がDFです。白丸のところにボールがあります。両者スワーブするようにボールを追いかけています。
とりあえず懐トラップを入れて様子を見ています。いくらかDFから離れる方向にボールを止めているのがわかります。
DFは懐トラップに騙されています。本当は白点矢印の方向に動かないと止められないのですが、ボールがある方向に吸い寄せられて白実線のほうに動いてしまいました。完全に逆を取られています。
DFは左足をいっぱいに伸ばして対応。リケルメは懐姿勢でボールをキープし、ルックダウンして相手の脚を見ます。軸足側に転がせば確実にボールキープできると知っているからこその余裕です。
ここで相手が転ぶとわかったので大きめのタッチで抜きにかかります。ファーストタッチではなく敢えて2タッチ目で抜きに行くことの利点は、ファーストタッチで懐の中に収めることで相手を見る余裕が生まれることにあります。また、ボールを僅かに転がしておけば、相手の予測を外して相手の足が届かないところにボールを置けます。相手のリアクションがわからない時はこのように一旦短く弱いタッチで懐の範囲内にボールを転がして、相手をよく見てから2タッチ目で抜け出すプレーが有効です。このシーンでワンタッチでかわそうとしていたらDFにもっと粘られていたことでしょう。
青の三角形は懐の三角形を示しています。白矢印のほうへ加速すれば大抵抜けます。クスドリの要領です。
一人目のDFを攻略しました。つづいて2人目のDFが後方から迫ってきます。
ここでトータッチ加速を使います。トータッチは通常より手前に足を付けるので、足を前に出したとしても、より重心に近い位置に接地できます。これが地面からの反発力を増幅するので加速に向いている技術です。リケルメはこれをつかっていち早くトップスピードに乗ろうとします。
接地前にわずかに足を引くことで、ボールに触った足で強く地面を踏むことができます。
DFはリケルメの左側を回って前へ出ようとします。
リケルメはここで「角度を変えるタッチ(蹴球計画)」でボールを確保します。青点線のようにゴールに対して最短距離ではなく、青実線のように相手から遠い位置にボールを移動します。リケルメはこの相手から逃げるタッチをよくやります。ゴールから遠ざかるので一見無意味に見えますが、ボールをキープし続けるためには非常に重要な技術です。
すると3人目のDFが後方から迫ってきます。
これを懐インサイドを使っていなします。紫の三角形に対して直角がある方向へボールを掻き出します。3人目のDFはアウト逃げのタッチがもっと伸びると思ったのか、思い切ってスライディングを試みています。しかし、リケルメはアウト逃げのタッチを最小限の強さに留め、ボールを足元に残しているので、すぐに懐が使える状態を維持していました。ここでも慌てて1タッチで大きく逃げるのではなく、相手を見るためにボールに小さな変化を与えて懐に残し、そこから相手の逆突くアクションが選択されています。
スライをゆうゆうとかわし、
2人目のDFの背中を取るようにドリブル進路を変更します。
このタッチが大きくてDFのスライが届きそうになりますが、リケルメのこの日一番の魔法でなんなく抜け出します。
こういったどっちが先に触るかわからないとき、焦って相手より早く触ろうと足を伸ばすとボールを強く突いてしまい、カバーリングのDFに奪われてしまいます。こんなとき使えるテクニックがあります。リケルメは多分これを使っています。
つま先でボールを踏みます。すると速く触ると同時に、ボールが足下に残ります。つま先で踏むとボールにはバックスピンがかかり、遠くに転がるのを防いでくれます。足の見かけの動きよりもボールの進むスピードが遅いので、周りの選手を騙す効果も生まれます。
2人目のDFのスライを空振りさせると、ボールはバックスピンで減速します。ゆっくり見るとわかります。
4人目のDFが突っ込んできます。ボールが思ったより減速したので4人目のDFは目測を誤って飛び込んでしまいます。
再びつま先で触るタッチ。今回はインサイドでやっています。インサイドやアウトサイドのほうがつま先よりやりやすいです。DFも突っ込んできているので刺し違える形で先に触ったほうが勝つのですが、遅れたDFはリケルメを削ってファウルになっています。ファウルを受ける場合、特にペナに近いとシビアな判定になりますが、なるべく有利な判定をもらうには「ボールを生かしておく」ことが大事です。ボールが生きるとは、次のプレーに繋げられるという意味で、なるべくボールを近くに置いておくことを意味します。トータッチで先に触っても、タッチが強すぎてラインを割ったり、すぐにシュートに結び付けられないようだと、審判としてはファウルを取りにくいです。トータッチ逆回転でボールを足元に残しておけば、ファウル判定においてかなり有利だといえます。
DFの鼻っ先で触って抜いていくドリブルを「切っ先ドリブル」と呼んでいますが、ほぼほぼ身体に頼ったドリブルスタイルではありますが、このようにつま先で踏むタッチやフィジカルコンタクトなどの緻密な技術を使いこなせる選手を見ると、「才能あるな」と思います。
今回は懐でじっくり相手を見極めるための「ボールを転がすタッチ」と先に触ることとボールを足下に残すことを両立する「トータッチ」を解説しました。また宜しくお願いします。
いつも楽しく拝見させて頂いております。
1つ確認なのですが、2人目の背後を取るように進路を変えた後、駆け上がった味方にスルーパスした方がゴールチャンスは広がりますよね?リケルメはそれを分かっているはずなのになぜそうしないんでしょうか?ただ単に相手を抜きまくって自己満足したいだけですか?私が味方ならいくらドリブルが上手くても文句言います。監督なら使いません。サッカーの目的はゴールして勝つことなので。