ドリブルとは複雑なスキルの組み合わせで成り立つプレーである。しかし、細かいドリブルの手順を考えながらでは、プレーは止まってしまうし、DFにも挙動を読まれてしまいドリブルは成功しないだろう。本質的にはドリブルは本能的なプレーであり、瞬間的な閃きこそ、堅いDF陣を切り裂く鍵なのだ。
人間にはサーヴォ機構というものが元々備わっているという(注『潜在意識が答えを知っている!』マクスウェル・マルツ)。細かい手順をあれこれ考えて行うより、一つの明確な目的意識だけを持ち、あとは本人の無意識領域に問題解決を委ねるほうが上手くいくという主張だ。この考え方はドリブルやフィニッシュというサッカーの中でもとりわけ直感的なプレーの解釈に役立てることができると思われる。
シュートやクロスという決定的チャンスを創造するために、目の前のDFを一枚剥がす、あるいは何人かを引きつけた上でズレを作ってスペースを生む。そのためにどのようなスキルを使えばよいのか。その目的意識をブレずに持ち続け、実践の中でもがきながらスキルを磨くべきだ。
サーヴォ機構を上手く働かせるためには、正しい自己イメージを持つことが重要だという。サッカーに置き換えるなら、より実践的で現実的なプレーのイメージだ。サーヴォ機構は無意識的に自己イメージに近づくように、本人に行動を促すとあるから、非現実的な、実践と乖離したプレーのイメージを持ったままでは、試合で活躍できる選手にはなれない。自己イメージなのだから、本人の目の前に突きつけられた現実に対して、それを解決できるイメージで自分のプレーを構築しなければならない。
例えば、高いレベルを目指してメッシやCロナウドの真似をすることは悪いことではないが、それに固執しすぎて自身の試合で求められる問題解決から目を背けていては成長できまい。年齢やプレーレベルに応じた課題というのは常にあって、それを本人が自分で感じ取って解決していける自己イメージを醸成していかなくてはいけない。その中で、必要なスキルが身についていき、その積み重ねの先に大きな成長がある。
だから、「このスキルは何歳までに身につけないといけない」ということはなくて、プレーヤー自身が、目の前の問題を解決する過程で、スキルは自然発生的に生み出され身についていく。無意識がスキルを捻出する、そんな成長過程が理想だ。だから思いついたことはすべて試して、たくさん失敗しながら成功を積み重ねていくしかない。
成長には失敗がつきものだ。しかし、サーヴォ機構は”成功を記憶し、失敗を忘れ、成功した行動を習慣として繰り返す”メカニズムが備わっている。また、”私たちの意識的な思考と注意がポジティブな目標の達成に向けられているかぎり、過去の失敗の記憶が害を及ぼすことはない”のだ。だから”やり方を教えるな、やるべきことだけ伝えろ”という強いメッセージを、指導者は選手に、選手は選手自身に送り続ければいいのだ。
現実的でかつ高いレベルの自己イメージを持つことがまずは重要だ。今、自分がそのレベルになくても、全く気落ちすることはない。自己イメージは、それが実現できない現状から、自分には何が必要でなにをすべきなのかを見出す助けになる。そして時間はかかるが必ずそこに近づくように環境が整っていく。潜在意識に成長の過程を委ねることで、プロセスを楽しみ継続的な成長が可能になり、どんな目標にも到達できるという自信が手に入る。
では指導者としては何ができるかと言うと、まず選手達は成長したがっているし勝ちたいと思っているという前提での話になる。そうでない場合、成長することの楽しさを根気よく伝えていくしかない。そのうえで、選手は常に悩んでいるし問題を抱えているという目線で一人ひとりに向き合う必要がある。
選手が抱えている問題を解決するには、適切な自己イメージを醸成することの援助を行うことだ。選手を否定することなく、問題に意識を向けさせる対話や質問を投げかける、あるいはトレーニングによって言語を解することなく動作の改善を発見させるサポートをする。
その際には、問題を分析的に理解する必要が指導者にはある。だから一定の水準まではプレーを分解して深掘りする能力は必要だろう。しかし、それをそのまま選手に伝達するのではなく、疑問の投げかけやトレーニングによって間接的に伝達し、選手の自己発見を手助けすることが理想だ。このプロセスによって選手はどんな環境でも自己イメージを適切に形成し、自身で問題を解決に導く力を手に入れられるだろう。指導者の手を離れても継続的に成長が可能な選手のモデルを実現できるだろう。
注 潜在意識が答えを知っている! マクスウェル・マルツ著 きこ書房 2009年