コントロールはサッカーの基本的な技術のなかでも最も奥深いプレーだと思います。
ここではコントロールをフリーな状態でボールを受けることとし、トラップをプレッシャーのあるなかでボールを受けることとします。
懐トラップは敵のプレスをズラしたりいなしたりするテクニックで、これはまた別項目とします。
コントロールの目的は2つあって、
1 ボールをコントロールすること
2 ボディバランスをコントロールすること
となり、どちらも次のプレーをやりやすくするために大事なことです。
1はみなさん当たり前のように意識していると思いますが、高いレベルでプレーするには2も同時に達成する必要があります。どのようにこの2つを両立するか、説明していきましょう。
コントロールのポイントは3つあります。
1 足を脱力して受動的変型をつかうこと
2 ボールを下に切り逆回転をかけること
3 足の重みを調整して体のバランスを保つこと
ひとつずつ説明します。
まず、受動的変型ですが、これは蹴球計画を参考にしてください。土踏まずの横ではなく拇指球の横にボールを当てると足首の受動的変型をうまく使えてボールの勢いを殺すことができます。
コントロールをボールと足の衝突運動と仮定するとニュートン力学を応用できますが、それだとボールの勢いを殺すために足を引かなくてはなりません。
ここでは連続体力学を応用します。連続体力学とは剛体と剛体の衝突ではなく、いくつかのパーツから構成される連続体同士の衝突と仮定します。
ボールには弾性があり、足は28個の骨で構成されています。さらに、足首と膝の可動域が広く、これらを利用してボールの勢いを殺します。
足にボールが当たると、足首が変形し、膝も後方に振られます。これが受動的変形の正体です。変形することで衝撃を吸収します。
そのためには足を脱力しておくことが必須です。さらにいうと、ボールとの接触位置はつまさきに近いほど足首の受動的変型を利用できます。
安定してボールをコントロールするには拇指球の横あたりでボールの芯を捉えると良いでしょう。
上手い人のコントロールで足を引いているように見えるのは、実際には足を引いているのではなく、ボールの勢いに押されて膝下が後方に弾かれているだけです。
まとめると、コントロールでは足を脱力して、拇指球の横でボールの芯を捉えることが大事です。
次に考えるのは回転です。
サッカーボールはバスケットボールより弾みやすいということを知っていますか?
サッカーボールは球技の中でもダントツで弾みやすいボールです。それを足でコントロールするのだから他の球技出身者からすると信じられないテクニックです。
ただでさえ、弾みやすいサッカーボールは、受動的変型だけではコントロールしきれません。
そこで、地面との摩擦を使います。
ボールを上から切るように止めてバックスピンをかけて、回転による地面との摩擦でボールを制御します。これも蹴球計画に書いてあります。
ボールはバウンドすることで、ボール自身の弾性により勢いを失います。だから、コントロールするときは下向きに止めるほうが良いのです。足との接触のあとに地面と接触することで、2回の衝突により止まりやすくなります。
さらに回転を使うことで地面と摩擦が起こり、足元近くで止まることになります。
ボールに回転を与えない選手は、ボールが足元で小さく跳ね回ることに気を取られて、すぐに顔を上げることができません。
ボールに回転を与えることで、ボールは足元から離れないという安心感を持つことができ、ボールから目を離してすぐに顔を上げることができるようになります。
最後に足の重みについて考えたいと思います。
はじめにコントロールの目的を述べました。そのうち2のボディバランスをコントロールすることは、高いレベルでプレーする上で欠かせない要素です。
上記の脱力と回転を用いるとボールを意図したところに止めることができるようになります。
しかし、ボールとの衝突により足が後方に弾かれて、ボディバランスを失いやすくなります。これでは、次のプレーに素早く移行することができません。走りながらのコントロールでは、走行速度が落ちてしまいます。
そこで、足に重みを与えて足がボールに弾かれないようにしてみます。
想像してみてください。
両手に布を広げて地面まで垂らし、そこにボールを投げつけてみましょう。
ボールは布に沿うようにストンと地面に落下します。ボールは布との接触地点より奥に止まります。布がボールを引き込んだ形です。
昔、トラップの説明に利用されたイメージですね。(お年の人ならわかると思います。)
次に枕のような大きめのクッションを両手持ちしてください。そこにボールを投げつけてみましょう。どうなるでしょうか?
ボールはクッションにドスっと接触し、真下か少し手前に落下します。奥には行きませんね。
何を言いたいかと言うとここでも運動量保存の法則が使えるのです。
被衝突体の重量が大きければ、衝突時の変形は少なくなります。
これを足に置き換えると、軽い足ではコントロール時にボールに弾かれて足を後方に接地することになります。重い足ならば弾かれないので真下に接地できます。この差がバランスの差を生みます。
軽い足とは脱力した足を軸足で支えた状態を言います。重い足とは止める方の足に体重をかけた状態を言います。
止める方の足の重さを調整することで、足が必要以上に弾かれることなく、衝撃を吸収することができます。
ボールのスピードと勢いを読んで、止める足に最適な荷重を出来れば、無駄のないコントロール動作が可能です。
冒頭にあげた、コントロールの目的のうち2の体のバランスをコントロールすることは、この3つのポイントを押さえれば可能になります。
コントロール後はどこにでもすぐに動ける体勢を作るか、ある方向に動き出せる体勢を作ることが重要です。
試合ではフリーで前向きにボールを持てたとしてもコンマ1秒たりとも無駄にはできません。コントロールして、次のプレーに移るまでに時間がかかれば、フリーでもらっても次の瞬間にはプレッシャーを受けてしまいます。フリーで貰っても顔が下がっていれば相手は楽に守備ができます。フリーで貰ってすぐに顔を上げ、キックができる姿勢で相手の守備網を見通すことで、相手の動きを止めたり、意図する方向へ動かすことごできます。
その意味でフリーでも常にプレッシャーはあると考えることもできます。敵からのプレッシャー、味方からのプレッシャーです。
ボールを止めるためだけの動作では相手のプレッシャーを受けたときにボールを刈り取られてしまいます。
軸足に重心が残っていると、止めたあとに止め足が浮いているので、その足を置いて移動するための体勢を作るまでにコンマ5秒くらいのタイムロスが生じます。
その間に速い選手だと3−4メートルは詰めてくるので奪われる可能性が高まります。
止める動作によって止め足をすぐに接地することでタイムロスを減らすことができます。ボールにバックスピンをかける要領で止め足を下ろし、その延長で接地後すぐに体を浮かせることで、コントロール後のニュートラル姿勢を作ることが重要です。これを立ち直しと呼びます。止め足で踏んでジャンプする要領です。
立ち直しが出来れば次にどの方向にもすぐに動き出せるのでプレッシャーに対抗できます。
プレッシャーをいなしたり、ズレを作るには懐トラップが必要ですが、コントロールを極めると懐トラップが必要なくなる場面というのも出てきます。詰められていてもボールが足元に収まっていてニュートラル姿勢が保てていれば相手より早く動けるということです。ジダンやベンゼマのプレーを見ているとそういう場面が多くあります。
「パスを出すのがワンテンポ遅い」とか、「味方と目が合わない」と言われる選手の多くが、土踏まずでボールを地面と挟むようなトラップをしています。
この方法だと、ボールがしっかり止まらないので不安になり、止まるまで顔が上がりません。また、軸足に重心が残っているので、次の動作をするために余計にステップを踏まねばならず、パス出しのタイミングが遅れます。当然、顔が上がらないので味方の動き出しを見逃してしまいます。
ここまでを整理するとコントロールの前中後はプレジャンプ→コントロール→ポストジャンプとなります。ポストジャンプまでできてこそ、高いレベルで通用するコントロール技術が完成すると言えます。
これらを簡潔に伝えているのが鬼木さんやYJRさんです。止め足の脱力と下ろして荷重する感覚を「目的地の認識」、これだけですべてを伝えてるという、物凄いワンワードですね。
これを踏まえて次はリフティングの本質です。
Kindle本もよろしくお願いします。