”Z世代”という言葉をご存知ですか?
日本では1980〜1990年代生まれをゆとり世代と称して、マナーや根性がなってない世代感を嘲笑する空気がありますが、アメリカではこの世代を”ミレニアル世代”といって次世代を担う期待の若者として社会が受け入れる雰囲気があります。マーク・ザッカーバーグがその代表者です。対照的ですね。
さらに若い世代として”Z世代”があります。2000年以降生まれの10代たちです。彼らはピュアにデジタルネイティブです。幼い頃から情報化社会の中で揉まれて育った彼らは情報感度が非常に高く、社会的共感の世代とも言われます。
しばらくサッカーを見ていなかったんですが、2015−16シーズンも終盤を迎え多少盛り上がりが目に入ってくると、新しい選手、新しいチーム、新しい戦術が目につきます。特に若い選手の台頭とともに、サッカー技術のさらなる洗練が垣間見られ、とどまることの知らないサッカーの進化に感嘆してしまいます。
今を生きる10代の若者たちも例外なく洗練されたサッカーを目の当たりにして、様々に思うところでしょう。SNSを通じてエッセンスが凝縮されたWEB動画でサッカーを吸収する彼らが、成人して台頭してきた頃にさらにサッカーが変わっていくだろうと思うと、サッカーに飽きてしまうということは一生なさそうですね。
今日は最新の動画からではなく、あえてクラシックに向かいたいと思います。リケルメシリーズです。Z世代にサッカーのクラシックを知ってもらいたくて。
クラシックにおいて秀逸な技術は後継者に伝達され、エッセンスとしてその業界に残ります。リケルメはその意味でエッセンスのカタマリみたいな選手でした。彼の技術を抽出すれば、現在に活きる技術を取り出すことができます。優れた技術は時代を超えて生き続けるんですね。
今回解説したいプレーはこれです。
リケルメに学ぶ体の使い方
リケルメの凄さは駆け引きにあります。このシーンでは正対状態、スラローム状態それぞれで良いプレーがありますので解説したいと思います。
まず、相手と正対します。
両足の浮きから軸足を踏み込んでマシューズで右へ逃げます。多分、右に行く理由はそこまで深くありません。とりあえず得意な方向だからという程度でしょう。右に行けばいくらでもそこから駆け引きでボールを守れるという自信の現れととったほうが納得できます。
右に切り返したけれどもそこまで相手は崩れていません。むしろ食いついてきているのでキックフェイントを仕掛けます。これも深い理由はないでしょう。
クライフターンします。クライフターンは懐を深く使うと相手を騙す効果が高いです。
相手の食いつきが強いので深めに切り返して後ろ方向に逃げます。
懐の深いクライフターンでしたので相手を体の前側に回りこませることに成功しました。
ここからスラローム開始です。
並走します。
一度右インサイドで外に逃げるタッチを入れます。
ここで軽く右インで左に切り返すフェイクを入れます。減速に対してDFも減速します。
さらにアウトで外へ逃げます。わざと追いつかせて逆へ行くと見せかけての加速なのでDFは心理的にかなり揺さぶられて疲れます。上手い選手は速く速くを目指さないんですね。相手の心を操ることがゴールへ最短だということを理解しています。
ここからの体の使い方が今日のエッセンスです。
並走しているとき、DFの方が速く動けるのでDFが有利だと考えられがちですが、上手い選手は違います。ボールを保持していることの優位性をフルに活用できます。
ここで”肩入れ”という技術が使われます。古武術バスケの「NBA選手と脱力」@TTKRCJさんから考え方を拝借しました。
参考動画
体から離れたボールを相手と競う合うのは身体が弱い選手には不利な感じがしますが、体の使い方ひとつでいつでもボールを守れる頼れる選手になることもできます。
上半身を前傾して右肩を相手の前へ入れます。腕も上手く使って相手の前へ入り込み、DFがボールへ近づくための進路を妨害します。DFは初めは腕でリケルメを捕まえようとしていましたが、ファールになると諦めて両手を広げてノーファールアピールしています。
DFはボール奪取を諦めてノーファールアピール+回り込みで時間を稼ぐプランに変えました。
リケルメは先程よりも余裕を持った状態で相手ゴールに近づいています。
DFがほっと一息ついたところを見計らってさらに加速。
DFも今度は完全にバンザイお手上げ。リケルメがライン際を抜け出します。
最初の状態を思い出してください。ボールとゴールの間にいたDFは今はボールがDFとゴールの間にあります。DFはDFの機能を果たしていません!!
セカンドDFに向けてリケルメがドリブルの角度調整をしています。
何を思ったのかここで右へ切り返すリケルメ。普通なら後方から追ってくるDFに取られてしまう場面ですが。
ここが本日最大の魔法の瞬間。
相手の足とボールの間にリケルメは自分の足を入れることで、相手にボールを蹴らせないことと自分が思い通りにボールタッチすることを同時に実現します。
もはやどっちがボールに触っているかわからない状態ですが、
DFが後ろから押す力も利用してボールを手繰り寄せます。
最後に勝つのはいつもリケルメ。
本当に高い技術です。”高い技術は最終的にファールに漸近する”、といつも言っていますが、これがまさにそのシーンに当てはまります。
セカンドDFはこういうとき不用意に近づくとかるーくワンタッチで抜かれる場合があるので離れて距離をとっています。良い判断です。
「はぁなんか疲れたぜ」って感じでバックパス。この辺が牧歌的ですね。現代ではちょっとありえないプレーです。
これだけの駆け引きが行われていることを、最初の動画のスピード感で感じることができましたか?普通は出来ません。ゆっくり見直さないとわからないことはたくさんあります。でも上手い選手はこれをピッチの中でプレースピードを落とさずに実行できます。技術がわかるということは、他者への尊敬につながります。それは世界をより良く建設していくための原動力になりえます。
リケルメシリーズは全部で19個くらいあります。全部できるかわかりませんが、暇な時はやりたいと思います。
いつもブログを見させてもらってます!
懐の概念は目から鱗で、プレーの幅が広がったみたいでした。最近は、身体で覚えることを意識して、練習しています。
リケルメと聞くと、走らないとか王様のようだとか、ネガティブなイメージしか無かったのですが、素晴らしいプレーヤーですね。全部は無理でも、一部でも彼の技術を盗めたらと思います。
ここで、質問なのですが、以前、紹介されていた大宮の家長昭博選手はとても懐の使えてる選手で、リケルメ程ではありませんが、キープ力もあります。
家長選手の長所と欠点を教えてください。長文にな
り申し訳ございません。
肩入れなんてfootballhackさんが何年も前に潜り込みや前傾して頭を入れるというような表現でブログで公開していませんでしたか?
前は古武術なんて否定していたのにスタンスがかわったのですか?
変わりました。肩入れは確かに以前言及していたことですが、より体系的に理解できつつあります。
理解できないことができるようになっていく、その過程を一緒に楽しんでほしいと思い、発信を続けます。