リケルメのプレーって見ていて飽きないですね。ボールを守る技術、ball-retentionスキルが半端なく高いです。ボールを相手から守るために体のいろんな部位を使っているからなし得ることが出来ます。しかも、相手の動きをよく見て、先回りして動いているから常に自分に優位な位置にボールを置くことが出来ています。ひとつひとつの動きはパターンですから、リケルメのプレーをよく見ていると、いつも同じ技でボールを守っていることがわかります。今日の題材からも、いつも僕が説明しているパターンを観ることが出来ます。では今日のお題をドン!
ビジャレアル時代のプレーですね。
右から左へ攻めていて、白い矢印方向からパスが来ます。赤い矢印の方向からDFが来ます。
懐トラップでしっかり収めます。少し腰を落として体重を増やすことで地面に根を張り、当たりに強い体を作ります。
左腕と左足でDFをブロックしつつ、右インサイドでトラップして左足の前を通過するようにボールを転がします。多少トラップが浮いても問題ありません。しっかりブロックしていれば、むしろボールが浮いている方が、相手から隠すことが出来るというメリットがあります。
背後の敵をいなしたところで、軸足方向に転がしたボールに向かってダッシュします。右から二人目のDFが来ます。
右のDFに対しては確実にリケルメが先にボールに触れるので爪先でボールタッチしつつ手押しでDFを牽制します。DFはスライを試みますが、手押しで妨害されているので足が思ったほど伸びず、ボールに届かないので単に転ばされた格好になります。リケルメゆうゆうとボールキープ。
余裕をかましているうちに左から一人目のDFが来ますので、またもや懐キープ。軸足側の脚、腰、腕でDFをブロックします。
強い力で当たられますが、地面を踏む力を活かせば倒れることなく踏みとどまれます。と同時に右足のアウトでボールを自分側に押し出して相手と距離を取ります。
押出したボールの方向に自分の体は弾かれて、相手は逆方向へ弾かれるので2人の間の距離は開きます。
アウトサイドで手前側にターンしつつ。
審判を使ったスクリーンプレーで狡猾にDFから逃げます。
ここで3人目のDFが右から来ます。
正対を使ったプレーの原則では上のように相手に向かってプレーすることで相手をピン留めし、次のアクションを起こすのが良いとされます。ここではリケルメは違う方法を選択します。
スワーブを描くドリブルでDFに寄せるポイントを作らせない、というか動きの軌道を読ませないことでいなしていきます。これは正対の一種でスピードを殺さず次のプレーに移りやすいドリブルの技術です。
3人目のDFは棒立ち。
一人目のDFがまだ食いついてくるので、角度を変えるタッチで距離を取ります。
ここまでは今まで紹介した技術を使っていることがわかります。ここからが今回のリケルメ解説の肝です。
まずリケルメはリケルメから見て左サイドへ向かってドリブルしています。しかし顔をDFに向けて状況を見ています。
このシーンではさらに首をひねって逆サイドの状況を見ています。このようにドリブルする方向とは別の方向を観る技術は意外と難しいが故に非常に価値が高いです。
このままDFはリケルメに余裕を持ってボールを持たせてはいけませんから、どこかで寄せいたいと思っています。
赤丸のDFとしてはこのままサイドに追い込んでボールを奪いたいところです。状況としてもリケルメはワンサイドカットされていて逆サイに行けるような雰囲気ではありません。
ここでリケルメはDFが寄せてくる雰囲気を感じ取って、右足をボールの前に着きます。ボールを左の懐に入れるテクニックだとも言い換えられます。
この姿勢はDFに左足での縦パスを予測させます。また左足でのクライフターンやクスドリも予感させます。ここではDFはパスを予測して後方に下がろうとしています。
右足の踏み込みによって生まれた「間」を使って素早く脚を踏み変えます。
左足の膝抜きを使って「浮き」を作り体をニュートラル姿勢に持っていきます。DFは「次は何すんだろう?」みたいなリアクションになっています。
DFは「間」があったことで守備アクションに空白が出来てしまったので、少し焦ってリケルメに寄せに行きます。「このまま自由にさせてはいけない」という意識でしょう。
リケルメは軸足抜きからマシューズの要領でアウトターンを実行します。DFの目を盗んだ細かいステップはまさにDFから時間を奪うようなプレーです。このように浮きを挟んだステップはDFに次のプレーを予測するためのヒントを与えません。結果、DFは「まばたきしてる間に相手の動きが変わった」かのような錯覚を起こし、対応が遅れてしまいます。
ボールを上から切るようなタッチでストップします。
蹴り足の膝の抜きで重心を落とし、地面を踏み込みながら左足を接地し
次のタッチで右サイドへ押し出します。このときあまり猫背にならずお尻を後方に持ち上げるような姿勢を取ると、重心移動が楽になります。
DFはやっといま方向転換しようとしています。
DFは黄色丸にリケルメを追い込み、ワンサイドカットで右サイドへ誘導したかったところですが、簡単に逆サイを向かれてしまいました。全然追いつく気配すらありません。
軽くドリいれて
スイッチプレーで味方に時間をプレゼント。
逆サイなんて向けないだろうなーという状況から、軽やかなステップで簡単にターンしてみせるこのプレーは、相手チームからすると完全に予測を上回るプレーです。追い込んでいるのに捕まらない、逆を向かれてしまう、というプレーを何度もされるとチームとしての守備戦術が機能しなくなり、徐々に組織が崩れていってしまいます。そういう意味でもリケルメのように時間を操ることの出来る選手は戦術的に大変貴重なのです。
イニエスタやモドリッチやイスコの存在意義はこういうところにあります。単純にゴールへ向かうプレーではなく、あえて遠回りをしているように見えるプレーの積み重ねが、堅い守備組織を破壊する鍵になるのです。言ってみれば、脳みそを揺さぶられる感覚でしょうか。予測が当たらないことの積み重ねが守備者の思考の疲労を生み、それが動きの遅延を引き起こすのです。そしてそういったプレーを支える技術が、角度を変えるタッチや懐なのです。
今日紹介した最後の切り返しのプレーは2ステップといって、わざと切り返しを2回に分けて行うことでDFを欺くテクニックです。色んな所で使えるので試してみて下さい。