今回はサッカー戦術談義の最終章になります、プリンストンオフェンスについてお伝えしたいと思います。
話が壮大過ぎてどこからてをつけていいのやらという感じですが、まずはプリンストンオフェンスとはなんぞやからやりましょう。
プリンストンオフェンスとはアメリカの大学バスケ界の殿堂、ピートキャリルが生み出したと言われるオフェンスシステムです。当時指揮していた大学の名を冠してプリンストンオフェンスと呼ばれています。めちゃくちゃ頭がいい学校で、スポーツ推薦なしで、当時の全米最強大学相手にジャイキリした伝説のチームです。コンセプトは「賢者は強者に勝る」です。
今、NBAではビッグマン(センターとか背の高い人)がガンガン3P狙いに行ったり、スクリーンプレーから連動してスペース攻略を目指す戦術が主流ですね。しかし、当時90年代ピートキャリルがプリンストン大学を指揮していたときは、まだそんなチームは珍しかったのです。プリンストンオフェンスは複雑な戦術的約束事のなかで連動してスペースを創出するシステムで、当時の関係者には好奇の目で見られていたようです。しかし近年、時代を先取っていたシステムとして、徐々にプリンストンオフェンスの名が広く知られるようになってきました。
僕がプリンストンオフェンスを知ったきっかけはバスケの発信をしている原田さんのメルマガだったと思います。原田さんは以前からバスケの戦術を好奇心をかきたてるような素敵な文章で
つづってくれていたので、好んで読んでいました。これが本当にすごい発見につながりました。
僕は一応、4-4-2のゾーンディフェンスの本を出しているくらいなので、サッカーチームを指導する立場にあれば、そのチームの守備を強化することはできます。実際、自分の社会人チームもそれで強くなりましたし。でも、攻撃はと言うと、個人能力頼みでした。そこで個人技の分析を行って、”持ってる選手”といわれるエース級の選手たちが身につけているスキルを明らかにしました。結論的には微細なスキルを連続して繰り出さないと、違いを生み出せる選手にはなれず、そのためには高い視力が必要なことがわかりました。
これでサッカーのことが全てわかったぞ、張り切って技術指導に勤しもうと思っていたのですが、他人にスキルを伝達することが思った以上に難しく、メンバー全員をエース級のレベルに到達させることは不可能に思えました。なにせ、身体を動かす感覚はひとりひとり違いますからね。言葉では伝えきれないことが多いんです。ですから、堅守速攻型のチームを全体でレベルアップすることができずにいました。また、堅守速攻は何年も同じメンバーでつづけているとジリ貧でつまらなくなってきますしね。
他にもいろいろな問題がチームに生まれてきました。まず、前線の選手の孤立化。そしてゲーム内で取れる対応策の貧弱さ。守ってから個人技でカウンターしかないのですから、そうなるのは当たり前です。
かなり煮詰まっていたところでプリンストンオフェンスと出会えたので、目の前がぱっと開ける感じでした。
プリンストンオフェンスのコンセプトはいくつかあるんですが、一番は選択肢を増やすことだと思います。選手は選択肢が多い状況でプレーできれば、自ずとミスが減り、キックの正確性が増し、落ち着いた判断で相手の逆をとることができるようになります。これが本当にチームにいい流れを生みます。また、選手同士で自発的にコミュニケーションを取り合って問題解決を図る姿勢を促したり、試合の流れを読んでゲームを大局的に考える習慣がつきます。
まさにいいことづくしなのですが、結果を強く求められるチームでは採用しづらいでしょう。初めはある程度結果に目を瞑って、指導者や周りの大人が長期的視点に立って、コンセプトや内容を評価できる環境が必要です。
こういった視点で世の中のチームを見渡すと、プリンストンオフェンス的なサッカーをしているように見えるのは「バルセロナ」「ユベントス」「ナポリ」「昔のスウォンジー」「昔のサンフレッチェ広島」「川崎フロンターレ」「筑波大学」などが挙げられます。どこも一貫した哲学があるチームですね。初めは苦労するけれども何年か経つと本当に強いチームに仕上げられます。これがチーム力だと思うのです。
前述の原田さんのメルマガのなかで紹介いただいた、プリンストンオフェンスの解説動画があるのですが、それを見た時、頭の中がサーッとする瞬間があって、「ああこれが僕が今までサッカーを学んできた意味なんだ」という感覚を得ました。ひとつひとつ紐解いてきた戦術的セオリーと見落とされてきた個人スキルの全てが網の目のようにつながって一つの体系を形作ったような感覚ですね。それらをまとめたマインドマップをシェアしたいので見てってください。